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強度近視の中で、年齢とともに眼軸が伸び、眼球が変形しながら拡張し、いろいろな合併症を起こしてくるものを「病的近視」とか「変性近視」と呼ぶことがあります。
その病的近視の合併症の代表格が網膜脈絡膜萎縮です。これは眼球の強膜が拡大し、強膜の内側にある網膜脈絡膜もそれに従って進展することで生じるものです。
そのために、網脈絡膜が薄くなり、その部分の機能がなくなったり、時には穴があいて網膜はく離になったりします。残念ながら、この進行性変化を抑える手立ては今のところ発見されています。
循環不全や神経線維の断裂が生ずる近視性視神経症になって、著しく視力が低下する場合があることもわかってきました。しかし、これまでほとんど知られて来なかった異常を、私たちは最近発見しました。
しかもそれは、珍しい現象ではなく、それほど高度ではない強度近視の人にもたびたび見られます。今まで私を含めて世界の眼科医がなぜ見落としていたのか、首をひねらざるをえません。
その現象とは、簡単に言えば、眼球が大きくなるのに対して、それを容れている眼嵩と呼ばれる骨で囲まれた窪み(頭蓋骨の眼のところを想像してください、あの大きな穴です)は大きくならないことから発生します。つまり、眼球の大きさに対して容れ物が小さく、窮屈な状態になるわけです。

このために眼球の動きにゆとりがなくなり、眼球の位置ずれが生じたり、自在に動けなくなり、ものがふたつに見える(複視)が発生するのです。まずは遠くのものがふたつに見えることに患者さんは気付きます。
眼科的に診ると、眼球運動に明確な制限はないのですが、眼が内側にずれた内斜視の状態であることが検査でわかります。しかも、遠くを見たときに内ずれがより大きいのです。
この現象を専門用語では「開散不全」と言います。開散不全は通常ものが横にずれるのですが、縦ずれ因子も加わることもあります。
筋肉の麻揮を伴わない縦ずれを、専門用語で「斜偏位」と言うことがあります。開散不全も斜偏位も、脳幹の病変を示唆しますから、こういう症例を診ると、必ず頭部のMRIかCTを撮っていました。
しかし、病変が見つかるのは何百例かに1例で、ほとんどは「正常」でした。ところがある日の外来で、同じように開散不全の症例を持った人が続けてやってきました。
いくら神経眼科の外来といっても、こんなにそっくりな2例を立て続けに診るということはまずありません。もちろん、2人は赤の他人同士です。
強度近視であるところまでそっくりなのです。そこで、ひょっとすると、この症状は「強度近視」と関係があるのではないか、と推察したのでした。
そこで、秘書に過去数ヶ月に私の外来に来た人で、「開散不全」「開散麻揮」という病名が記載されたカルテをできるだけ沢山出してくれと頼みました。出てきたカルテは8人分、そのうち何と5人が強度近視でした。
これで、私の推察は確信に変わりました。それで窮屈説が出てきたのです。

眼軸が2m、3m伸びたからってどうつてことないと思う方がおられるかもしれませんが、眼球は3次元的に大きくなるのですから、狭い空間の中では大きな事件です。しかも眼嵩は奥へ行くほど狭くなります。
甲状腺機能冗進症というと、多くの読者は「バセドウ病」を思い出し、眼がぎょろりと突出している表情を思い浮かべるでしょう。これを機会に医局のK先生という女医さんとこの研究を続けていきました。
そうすると、同じ強度近視でも、複視がない人は広い空間を持っていることを、彼女は発見しました。こうして患者さんを見てゆくと「窮屈病」の人はとても多く存在していて、今では100例近くに及んでいます。
それまでは、脳幹にMRIでは映らない程度の微小な病変があるのだろう、などと正しくない説明がなされていたのです。しかし、実際には脳ではなく、眼球と容れ物の関係だったのです。
眼科医としては正に、灯台下暗しでした。こうした患者さんの治療は、ずれが軽いうちはプリズムを眼鏡に組み込んで光学的に眼の位置ずれを補正する方法で対応できますが、年齢と眼球の軸の進展とともに、眼を動かす外眼筋の一部が弱くなって、眼球の位置が変位しやすくなるので、度合いが高度になり、プリズム眼鏡では補正が追いつかなくなれば手術が行われます。
ところが、そのような典型例はそれほど多くありません。むしろ、「眼が重い実は険が重い」「眼が疲れる」「時々ぼやける」などといった、いわゆる不定愁訴の中に、甲状腺の疾患に由来する「眼症」がしばしば含まれています。
医師のほうも典型例ならすぐに気付きますが、その病気を疑って特徴を掴まないと、それこそ「気のせい」「単なる眼精疲労」などと適切でない判断になってしまいます。そうなると、原因もわからず、なかなか治らない症状に患者さんは大いに悩むことになります。
しかも、眼科で診るときは、甲状腺の病気が盛んな時とは限らず、血液で甲状腺機能を測定しても正常ということも多いのです。私の外来で、甲状腺眼症の方の甲状腺機能を測定すると17%が正常値です。

その代わり、甲状腺の病気がかってあったことを示唆する各種の甲状腺関連抗体が陽性になっていますので、診断はできるのです。甲状腺眼症は、眼球の周囲に慢性炎症が起こる病気で、病変は眼を動かす外眼筋、膝を持ち上げる上眼険挙筋、険や眼球周囲の脂肪組織や結膜下組織にも炎症が及びます。
なかなか治りにくい病気ですが、早期かつ軽症のうちに副腎皮質ステロイド薬を点眼、局所注、点滴などで用い、必要なら放射線治療を加えることで対処すると、改善する可能性があります。甲状腺の内科的症状と眼科の症状は、しばしば時期的に一致せずに起こってきます。
ですので、内科的治療だけをしていれば大丈夫というものではなく、同時に眼科でも対応しなければいけない病気です。甲状腺眼症を診断でき、治療できる医療機関が日本では比較的少ないのが問題ですが、甲状腺機能冗進症の17%以上に眼症が出現することは確かなので、内科と眼科のタイアップが必須な疾患です。
交通事故や労災事故などで、頭頚部に怪我をした人から、いろいろな視覚の訴えが出ます。一部の人は、骨折や、視神経損傷によることが明らかですが、残りの多くは眼科で測定する、視力、視野などは正常範囲です。
ですが、「ぼける」「かすむ」「眼が疲れる」といったさまざまな訴えが頑固に続くことがあり、それも決してたまに、という頻度ではありません。頭頚部外傷で一時的に近視化する例は以前から報告がありますが、1年以内にたいていは治るとされています。
しかし、いつまで経っても症状が改善せず、いろいろな視機能検査をしてみても明らかな異常が検出できない例がとても多く、医師としてもやり切れなくなるのです。訴えからは、調節系の異常と類推できますが、調節の検査といえば、単純に調節幅を確かめる検査法くらいしか眼科では手段がありません。

こんな単純な検査方法では、調節異常の明確なメカニズムを発見することは不可能です。ピント合わせは、眼球の毛様体の収縮で水晶体の度数を変えることでしていますが、どれだけ調節すれば良いかを検査して実行させているのは、脳の調節や近見に関与する神経回路です。
ところが、この回路の性能を適切に測定する方法が眼科検査の中にはないのです。

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